ひとりでの留守番が不可能になり家族の外出に制限が
2023/11/15
愛犬ななみの著しい老化の進捗は、年齢を考えれば想定の範疇ですが、妻が自立歩行できなくなったのは、まったくの想定外でした。身体のバランスが思わしくない妻と老化が著しい愛犬と共存していくために、いろいろと生活習慣に変化が現れました。
一度倒れると立ち上がれない
目に見えて老化が進行してきた17歳。当初は、リビングの行動範囲を囲うことで、ある程度は愛犬ななみ単独で過ごしても大きな問題はありませんでした。そんな状態でしたので、妻の通院は、私が運転して20分間くらいの時間で往復していました。この程度の時間であれば余裕で家を空けることができたのです。
ところが、それから数カ月が経過すると、何の障害物もないところで転倒して、自立で立ち上がることができなくなりました。少し目を離している間に転倒すると、真横の姿勢で手足をバタバタさせるばかりで、立ち上がることができません。
あまり激しくばたばたしたために、肘や膝の皮が抜け落ちてしまったこともあります。そうなると安心して家を空けることはできなくなります。今では、妻は通院にタクシーを利用して、その間、わたしは家でななみと過ごしています。私の仕事は基本的に自宅でこなしているとはいえ、愛犬を見守りながらでは業務はほとんど進捗しません。
5年の歳月がもたらしたものは
このような状況ですから、とても旅行には行けません。私単独で出張する場合でも、愛犬の散歩や食事などの諸々の世話を考えると、長期間、妻ひとりに任せておくわけにもいきませんから、せいぜい半日で往復できるエリアに限定されてしまいます。
そのため、数年前に母が亡くなりましたが、実家が遠方のため、葬儀にこそ参列したものの、ここ1~2年の法事は、妹に事情を話して欠席をしています。親不孝だと非難されるかも知れませんが、愛犬がここまで衰えると、ペットホテルに預けることもできません。
母で思い出しましたが、生前一度、ななみを連れて帰省したことがあります。当時は膝を悪くしてベッドで寝たきりの生活でしたが、母に頭をおとなしくなでられていたことは、今となればいい思い出です。
我が家は愛犬も含めインドア派なので、あまり旅行に出かけることはありませんが、それでも一年に一度くらいは、ペットの同宿が可能なホテルに泊まっていました。年老いてからは身体への負担を考えて控えています。この先、ドライブ旅行をすることもないでしょう。
最後に愛犬ななみと旅行にいったのはいつだっただろうと、記録を捲ると今から5年前の夏でした。当時のななみは、12歳ですから、今から考えると十分に若い年頃でした。片道約300㎞の道のりを車を走らせ蒜山高原まで行きました。
当時12㎏の肥えた身体を一生懸命歩いていました。牧場のヨーグルトのような濃厚な生乳が気に入り、何度も平らげました。ダイエットに務めていた時期ですが、このときばかりは、解禁をして自由な食事にしていました。ウンチをしている最中に、目の前の草むらから狸が飛び出してきたのには驚きました。私自身は地方出身ではありますが、野生の狸を直接近で見たのは初めての体験でした。
考えてみれば、あれから5年しか経っていないのです。私などは、あの頃より多少腹が出てきたくらいで、これといって老化を意識する現象はありませんが、愛犬ななみの老化は著しく進捗しています。いかに1日、1日、いや1分、1分がいかに貴重な時間であるかを身に染みて実感します。
家族総出で出かけることも
妻も通院や美容院などの最小限の外出に留めていますが、タクシーを頼むのがはばかれるような近距離の対応に苦慮します。かといって、選挙やコロナの予防接種などのように、回避したくないイベントがあります。
幸い選挙は短時間で済みますし、期日前投票の制度もあります。コロナの予防接種も一時期のような順番待ちではなく、少人数による予約制です。思案したあげく、こうしたイベントには、家族ぐるみで車ででかけることにしました。妻が投票している間、あるいは妻が予防接種をしている間、私とななみは外で待っています。退屈をしたら、周囲を散歩することで気を紛らわすことができます。
ただし、このような行動をしていたのは、まだななみがしっかり歩けていた頃です。直近の選挙が去年の7月、予防接種が去年の10月ですから、その頃まではまだ歩けていたのです。今後、回避できないイベントがあれば、ペットーカート持参ででかけないといけません。
世界的な規模で流行したコロナウイルスの影響で、ここ数年は誰しもが不要な外出を自粛していました。会議や研修もオンラインが主流となり、外出の機会は大幅に減りました。しかし、この「自粛生活」は、ななみにとっては、まったく苦痛ではなかったように思えます。
この先、世間では、自粛の反動で旅行が活発化しそうな気配です。でも、我が家にかぎっていえば、この先も、家の中で「自粛生活」を続けることになりそうです。楽しみ方は、ひとそれぞれですから、これが我が家の楽しみ方の流儀です。
作家、フリーライター、文芸同人誌『あるかいど』発行人
短編小説集『けったいな犬やっかいな猫』(ことの葉ブックス)で、保護犬と暮らす青年の生き様を描く。
現在、シニア犬の柴犬、ななみと暮らす。