老化とともに歩行困難になるも、まだまだ歩こう
2023/09/30
愛犬ななみの老化は、特に足の衰えが顕著です。16歳の頃からフローリングがまるでスケートリンクになったかのように足が滑るようになり、やがて両足が、どうしても「ハ」の字に広がってしまうために歩けなくなりました。そのため、なんとか室内で歩行できるように、いろいろな工夫を重ねてきました。
かつては散歩嫌いだった
思い起こせば、若い頃から散歩が嫌いな愛犬でした。散歩で時間に余裕があるとき、気分転換にいつもと違うコースに足を進めると、たちまち足を踏ん張って、それ以上歩くことを拒否します。その踏ん張る力で消耗するのなら、素直に散歩に従った方が楽だと思うのですが、意思が強かったのでしょう。
保護施設の里親募集の説明文には「散歩が上手にできます」とありましたので、てっきり散歩好きだと思い込んでいたのですが、「上手」と「好き」は違うことを思い知らされました。しばらくして気づいたのですが、ななみはあまり草や地面の臭いを嗅ぐことをしません。ただひたすらに黙々と歩きますから、そのあたりを評価しての「散歩が上手」だったようです。
バリアだらけの家になる
散歩嫌いのななみですが、家の中は自由に歩き回っていました。リビング、ダイニング、キッチンの間仕切りがない我が家の空間は、すべてフリーパスです。ソファーの下に潜り込み、脱出に四苦八苦したこともありますが、すべては遊びの一環でした。今となっては信じられませんが、半日以上留守にしていても何の問題も発生しませんでした。
ところが、徐々に壁の入隅や什器で行き止まると、脱出ができなくなり時には吠え立てます。おちおち目が離せないので、ななみが移動できる空間を柵や座椅子などで区切ることにしました。6畳くらいのスペースを歩行空間として確保することができましたが、それがリビングの中央にあるため、私たち夫婦は、ソファーに座りにいくのも、ダイニングやキッチンに行くのも、そのたびに柵をまたいで移動する必要があり、本来バリアフリーの家なのに、オールバリアの住居になってしまいました。
しかも、前足は衰えたものの、後足は往年の力が残っているため、二足歩行のように立ち上がり、そのバリアを乗り越えようとするのです。そのため、柵は当初よりもさらに一段高い仕様に変える必要がありました。高さの低い座椅子の上には、さらに菓子箱などを置いて高さを稼がないと柵の効果が発揮できなくなったのです。
タイルカーペットを貼る
リビングの中央に確保した歩行空間には、当初い草ゴザを6枚ばかり敷いていました。ところが、接着テープを用いても、フローリングにうまく固定できず、常に位置補正をするような事態になりました。最悪なことに、ゴザごとスライドするので、私たちまで滑って転ぶのです。
さらに、ななみ自身もい草ゴザ自体にも足を踏ん張ることが困難になってきたため、別の対応を迫られることになりました。あれこれ、調べてみましたが、どうやら老犬用にタイルカーペットがあることを知り、さっそく購入することにしました。
最終的に50枚くらい貼ることになったので、作業は大変でしたが、ななみの足の踏ん張りが利き、スムーズに歩行できるようになりました。
タイルカーペットにしたことで、歩行以外の利点があることが分かりました。これを貼った当初は、まだおむつを装着していなかったのですが、ちょぅど粗相を繰り返すようになった時期と合致しました。
タイルカーペットは、30㎝×30㎝の大きさですので、汚したカーペットを単独で張り替えることができます。今は、常時おむつをしているので、粗相で汚すことはほとんどなくなりましたが、食事等で汚すことは時々あり、部分ごとに張り替えていきました。今は、どのカーペットも3代~4代くらいは貼り変わったと思います。
時の流れるのは早く、当初カーペットを購入してから2年6カ月が経過しました。当初は、カーペットでしっかり歩ける姿を見て安堵したのですが、愛犬が年老いていくのは、人間の何倍もの早さです。この半年くらい前からは、前足が弱ってきたため、歩行すると身体が傾くようになり、うっかりしていると転倒します。
それでも自力で立ち上がっていたのですが、この数カ月前からは、横向きで手足をばたばたさせているばかりとなりました。老犬ですから、近頃は目に見えて、全身の毛量が減っています。手足や腹、背中に赤い地肌が目立つようになりました。あちこち転倒してもカーペットが多少はクッションの役割をはたしてくれているのですが、摩擦で毛が摩耗してしまう心配もあり、ほとんど目が離せられないようになりました。
幸い、まだ目は見えていますので、歩行空間にある唯一の物体であるピアノの椅子にもぶつからずに歩くことができます。時には、この椅子の脚で身体を支えて転倒を防いでいる姿を見ると、まだまだこの家で楽しく暮らしたいのだという意志が伝わってくるようです。
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作家、フリーライター、文芸同人誌『あるかいど』発行人
短編小説集『けったいな犬やっかいな猫』(ことの葉ブックス)で、保護犬と暮らす青年の生き様を描く。
現在、シニア犬の柴犬、ななみと暮らす。