老犬のYOASOBIは目が離せません
2024/01/20
老犬になると、なかなか目を離すことができません。特に夜に起きてしまうと、家族中がおちおちと寝てはいられなくなるのです。
若い頃から夜遊びの習性があった
愛犬ななみがうちにやってきた日、夜は1階のリビングにセットしたケージで寝かせて、私たち夫婦は2階の寝室で寝るという計画を立てていました。しかし、リビングの電気を消して寝室で横になっていると、いつまで経っても「ピー、ピー」という鳴き声が止まないのです。
心細がっているのが誰にも分かる切ない鳴き声です。とても呑気に寝ているような状況ではありません。計画を変更して、ななみを2階に連れて行き、寝室で一緒に寝ることにしました。人がいることで安心したのか「ピーピー」という声は出さなくなりましたが、慣れない場所に興奮したのか、激しい呼吸でしばらくの間動き回っていました。
2日目からは、安心な場所だと分かったのか、当初の予定どおり、1階が愛犬、2階が夫婦と別々の場所で寝ることが定着しました。当初はケージの中で食事、トイレを済ませる予定でしたが、保護犬で6歳にもなっていると、新しい習慣が身につくはずもなく、2日目にして早くもケージは撤去し、自由にリビング、ダイニング、キッチンを行き来するようになりました。
寝る場所が別々だったので、最初は分からなかったのですが、長女が帰省すると、1階の和室を寝室としています。リビングと接しているので分かるのですが、夜中にごそごそしているとのこと。朝起きたときは、いつも静かに寝ていたので、一晩中寝ているものとすっかり思い込んでいましたが、どうやら夜遊びの習性があることが、このとき分かりました。
それでも若い頃は、声を立てて騒ぐわけでもなく、夜目が利くのか、電気を点ける必要もなかったので、自由にさせていました。
夜遊びを見過ごせなくなった
15歳くらいになり、認知症らしき症状がでてくると、夜遊びを見過ごすことができなくなりました。壁で行き止まりになると、たちまち吠えてしまうからです。そのため、妻が1階の和室で寝て、パニック時に備えるようにしました。
16歳になると、夜に目覚めると、興奮状態で走り回るようになりました。あちこちの壁にぶつかり、それを止める方も大変です。物音が気になり、もともと眠りの浅い私もまったく寝付けません。朝になると、妻もふらふらで、見ていられなくなりましたから、「夜勤」の交代を申し出ました。妻としては、私の仕事に支障が出るのではと危惧していましたが、夜中に音が出れば目覚めているから同じことだと説得し、交代に同意してもらいました。
「夜勤」は意外と快適
愛犬ななみと枕を並べて寝る「夜勤」は意外と快適でした。夜中に目覚めると、タブレットでインターネット放送を見ながら、缶ビールをちびちびと飲みます。1時間~2時間もすれば再び眠りに就きますから、その間の時間つぶしと考えれば気楽なものです。こうした過ごし方ができなかった、妻は相当の苦痛だったと思います。ただし、弊害としてビールの摂取量が増えたので、目に見えて腹回りが大きくなりました。
静かに夜中を過ごしているつもりでしたが、やはり妻の寝ている寝室にも音が届くようで、おむつを交換しているだけで妻も起きてくるようになりました。そうなると、2箇所に分散して寝ることは意味をなさないので、最終的には全員が1階の和室で寝るようにして、それは現在も続いています。
考えてみれば、我が家の家の構造上階段とリビングが間仕切りなしで繋がっているので、1階の音が2階に響きやすいのです。
夜中に口をくちゃくちゃしたら排便の合図
17歳になると、排便はほとんど睡眠中にするようになりました。夜中にガムを噛むかのように口をくちゃくちゃし始めると、決まっておむつの中に排便をしています。不思議なもので形は、見事なくらい球体です。
おむつ交換は二人がかりの作業です。就寝中だと余計に自立できないので、私が上半身の脇を持って身体全体を支えて、妻がおむつを交換します。我が家は、セコムでセキュリティを駆けていますので、トイレに流しておむつを外のゴミ箱に廃棄するために、セキュリティを解除しなければなりません。これを夜中の2時~3時に行うのですから、ここらあたりが「夜勤」の正念場ともいえます。
どんなに夜中に起こされても、朝の5時にはななみの「離乳食」と称して、朝ご飯用の野菜を煮込みます。夫婦でばたばたしているのにも拘わらず、当の本人は、まるで罪のない安らかな顔で眠っています。
動物病院での雑談で、近所の老犬が夜鳴きが続き老犬ホームに預けられたという話を耳にしました。飼主の方は毎日面会にいっているとのことですが、胸の内はさぞや切ない思いをしていることでしょう。幸いななみは、壁にぶつかり「ワン」とひと鳴きすることはあるものの、連続して鳴くという習慣がありません。多少夜中に起きて、寝不足になろうとも、家族総出で川の字になって眠れることが、どれほど幸せなことなのかと、改めて実感しています。
作家、フリーライター、文芸同人誌『あるかいど』発行人
短編小説集『けったいな犬やっかいな猫』(ことの葉ブックス)で、保護犬と暮らす青年の生き様を描く。
現在、シニア犬の柴犬、ななみと暮らす。